相続手続き全体の概要
相続手続きは、遺族が亡くなった方の遺産を法的に受け継ぐための一連の手順です。その手続きは、死亡診断書の取得から始まり、死亡届の提出、火葬許可証と埋葬許可証の取得など、さまざまなステップを踏む必要があります。それらの初期の手続きが終わると、遺産相続に関する具体的な手続きが始まり、相続人の調査や被相続人の相続財産調査、遺言の有無や内容の確認、遺産分割協議、調停手続きなどが始まります。
このように、相続手続きは多岐にわたります。
ひとつひとつ着実に進めていき、最終局面として、不動産の登記を移転することや被相続人の預貯金を解約してこれを取得することが決まった相続人の口座に現実に移すことで相続手続きは終わりを迎えます。まずは、相続人、相続財産調査を行い、フローチャートに従って、ゴールの預貯金解約・不動産登記移転に進んでいきます。
最終局面の重要性についての説明
この相続手続きの最終局面である「移転登記」と「預貯金解約」は、具体的な手続きや必要書類が複雑です。預貯金については、金融機関ごとに所定の書類を要求されることもあり、大量の書類を用意する必要に追われることもあります。あと一歩で現実に自分の財産にすることができるところまで辿り着いたのですから、この最終局面は落ち着いてしっかり準備をしていきましょう。
移転登記は、被相続人の名義になっている不動産を相続人の名義に変更する手続きです。相続による移転登記をしておかないと、その不動産が自分のものであることを他人に主張できないため、不動産を売却することもできませんし、賃貸に回して収益を得ることなどもできません。
預貯金解約は、被相続人名義の預金や定期預金を解約し、相続人へと移す手続きです。被相続人名義の預貯金を解約するためには必要書類を準備して金融機関に提出しなければならず、書類などに不備があれば金融機関に厳格に解約することを断られます。大きな金銭が移動することになりますので、金融機関は万一の金融事故が起こらないように特に慎重な態度で接してきます。かといってそのまま預貯金を放置してしまうといつまで経っても相続財産を受け取ることができませんし、消滅時効により預貯金が消滅してしまうことにもなりかねません。最終局面でしっかり準備をして確実に預貯金の移転を行いましょう。
預貯金のほか、証券や国債についても基本的には預貯金と同じように被相続人名義の口座を解約して相続人へ移す手続きが必要となります。
相続による移転登記の手続き
移転登記とは何か。その必要性
移転登記とは、不動産の所有権の名義人が変わる際に必要な手続きであり、法務局に申請を行います。具体的には、売買で不動産を譲渡した場合や相続財産を相続した場合、遺贈によって不動産を取得した場合などに必要となります。
この手続きの必要性は、不動産の正式な所有者が誰であるかを公に証明するためです。所有者が変更された事実が正しく登録されていないと、不動産の売却や賃貸などの取引が困難になる可能性があります。特に相続の場合、複数の相続人がいるときに所有者を明確にすることで、後のトラブルを防ぐ効果もあります。
相続登記義務化
2024年4月より、相続登記が義務化されることになりました。これは、相続で不動産を取得した際に、特定の期間内に相続登記を行うことが義務付けられる制度です。
相続登記は、相続が生じた後、法務局にて書類を提出し、新たな所有者として登記する手続きです。これまでは任意であった相続登記を義務化することで、所有者情報を正確に反映し、土地や建物の利用・活用に支障が出ないようにすることが狙いです。
相続登記の義務化による登記を放置することによる罰則もありますので、最終局面では確実に相続の際に移転登記を行い、後日の売却や賃貸による収益をトラブルなく行えるようにしておきましょう。
必要な書類と手続きの流れ
移転登記の手続きでは、複数の書類が必要となります。
用意する主な書類は、①被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本類、②相続人全員の戸籍謄本類、③相続人全員の住民票の写し、④相続人全員の印鑑証明書、⑤不動産の納税通知書の課税明細部分または固定資産評価証明書、⑥不動産の登記簿謄本、⑦遺産分割協議書です。
これらの書類のうち、①から④と、⑤の固定資産評価証明書は市役所・町役場で、⑥は法務局で取得することが可能です。②から④については、不動産を取得しない相続人の分も用意する必要があります。
また、⑤の書類を用意するのは、登記手続を行う際にかかる税金(「登録免許税」といいます。)の金額を確認するためです。⑤の書類に記載された金額の1,000円未満を切り捨て、その金額に0.4%を乗じた金額の100円未満を切り捨てた金額が税額となります。
なお、以上の登録免許税とは別に、不動産その他の遺産を取得したことに対する相続税の申告と納付が必要になる場合もあるため、注意が必要です。
注意点としては、印鑑証明書の取得や遺産分割協議書の作成には相続人全員の同意が必要となるため、相続人のうち1名でも準備に時間がかかってしまうと手続きを進めることが難しくなることです。また、全ての必要書類を法務局に提出した後も、法務局内部での手続に一定の時間がかかるほか、資料が不足していた場合は追加提出を求められることもあり、手続きの完了までには時間がかかるため早めの対応が必要となります。
以上のステップを経て、適切に移転登記の手続きを行うことができます。なお、各書類をPDF等の電子データにすることで、移転登記の申請をオンラインで行うことも可能です。具体的なオンライン申請の方法は、法務局のホームページ等をご確認ください。
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一般的な疑問点とその回答
「移転登記の手続きはいつまでに行えばいいのか?」という質問も頻繁に寄せられます。
2024年4月からの相続登記の義務化に伴い、移転登記は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に行うことが必要となりました。
仮に、3年以内に遺産分割協議が成立しない見込みである場合は、法定相続分のとおりに持分を分けて移転登記を行うことも可能です。その後に遺産分割協議が成立したときは、協議の結果不動産を取得することになった相続人が、協議成立から3年以内に再度移転登記手続を行う必要があります。
なお、「相続発生(または遺産分割協議成立)から何日以後でなければならない」という決まりはありませんが、戸籍謄本等の登記手続に必要な書類を入手できるようになるまでには、市役所等に死亡届を提出して役所内部の手続を待つなどの一定の時間を要することにはご注意ください。
預貯金解約の手順
相続が発生した際は、被相続人名義の預貯金の解約が必要となります。手続きは金融機関ごとに異なることもあるため、各金融機関の指示に従うことが重要です。預貯金解約のプロセスは一見複雑に思えるかもしれませんが、各ステップを着実に進めていけば問題ありません。
まず、預貯金の存在を調査・確認します。都市銀行や地方銀行だけではなく、ネット銀行についても調査を行います。一つの金融機関の預金通帳があればその内容を一行一行確認していくことで、別の金融機関口座への預金の振り込みや証券口座への預金振り込みがわかることもありますし、自宅に郵送されている配当金の支払通知書などから振込先の口座が新たに判明することもあります。その他、被相続人の日記などの記録や金融機関からの通知などから把握できることもあります。
次に、必要書類の準備です。基本的には、被相続人及び相続人全員の戸籍謄本類に加え、「相続人全員」の「意思」がわかる書面が必要になります。金融機関ごとの所定書面は、署名している者が相続人全員であることと、各相続人の実印による押印があること、印鑑証明書が添付されていることにより、各相続人の意思が明確に示されていることが確認できる書面になっています。
ただ、金融機関毎ごとに用意されている所定書面は、相続人全員が特にトラブルなく合意に至った場合を想定して作られているため、遺産分割協議でもめた場合やその後の遺産分割調停に移行した場合などについては必ずしも金融機関ごとの書面では相応しくない場合もあります。
この場合には、相続人全員で作成した遺産分割協議書や、家庭裁判所が作成した遺産分割調停の調停調書、遺産分割審判がなされた場合の審判書を代わりに提出することになります。詳細な書類は金融機関により異なるので、具体的な内容は各金融機関に問い合わせてください。
なお、遺産分割協議書には、金融機関の所定書類と同様に全ての相続人の署名と実印による押印、印鑑証明書の添付を求められることが一般的です。他方、家庭裁判所の調停調書や審判書を用いた場合は、預貯金を取得することとなった相続人のみの実印による押印、印鑑証明書の添付のみで足りることが多いです。
必要書類と金融機関での手続きのまとめ
預金解約に至るまでの相続手続きは煩雑ですが、以下のような書類が必要となります。
遺言書がある場合:遺言書とその検認(自筆証書遺言の場合のみ)を示す書類、被相続人の戸籍謄本(死亡が確認できるもの)、遺言執行者(選任されている場合)の実印・印鑑証明書
遺産分割協議書がある場合:遺産分割協議書(署名・実印による押印が必要)、被相続人の除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書
遺産分割協議書・遺言書がない場合:相続人全員が署名し、実印を押印した金融機関所定の書面、被相続人の除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書
家庭裁判所による調停調書・審判書がある場合:調停調書謄本または審判書謄本、預貯金を取得する相続人の印鑑証明書
手続きは金融機関で行います。以上の必要書類は状況により異なるため、具体的には金融機関に問い合わせてください。
また、金融機関も大きな金額が動くため極めて慎重な対応をしますので、できれば窓口になる金融機関の担当者を固定してもらうなど、担当者により伝達内容が異なり窓口に行くたびに発言が変わるような混乱をできるだけ避けられるような手続きの環境を整えていきましょう。
スムーズな手続きのための実践的なアドバイス
実践的なアドバイスとして、第一に、手続きの流れをしっかり理解することが大切です。混乱を避けるために、全体の流れや各手続きの目的を頭に入れておくと良いでしょう。次に、必要な書類は早めに準備しましょう。特に遺産分割協議書は、相続人全員の署名・押印が必要となるため、時間がかかることを念頭に置いてください。
また、移転登記や預貯金解約といった手続きは専門的な知識が求められます。わからない点や不明な点があれば、相続に強い弁護士に相談することをお勧めします。専門的なアドバイスを受けながら進めることで、手続き過程のミスを防ぐことができます。
相続手続きは多岐にわたるため、予めチェックリストを作成し、必要な手続きの一覧を確認しましょう。手続きには個々に期限が設けられていることもありますので、期限を逃さないように注意が必要です。
また、移転登記や預貯金解約などの手続きには、必要な書類が多く存在します。必要書類の確認と準備を事前に行うことで、スムーズな手続きが可能となります。
さらに、金融機関や法務局では、一部の手続きについて専門の窓口が設けられており、相談や手続きの支援を受けることができます。
例えば、相続に伴う移転登記に関しては、法務局が提供している「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)」が有用です。このハンドブックでは、相続登記の申請手続きがどのようなものか、また遺贈によって不動産を取得した場合の所有権移転登記の申請について詳しく説明されています。
また、オンラインで相続登記を申請したい方に対しても、具体的な申請方法を解説しています。さらに、PDF形式のファイルがダウンロード可能で、手続きに必要な書類を確認できます。
このようなサポートリソースを活用することで、相続手続きをスムーズに進めることが可能となります。法務局のサポートリソースは下記から確認できます。
相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック):法務局 (https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000001_00014.html)
まとめ
相続手続きには様々なステップがありますが、その中でも移転登記と預貯金解約は特に注意が必要な手続きです。移転登記では法務局のガイドラインを参考にし、必要な書類の準備や申請手続きを進めます。また、預貯金解約においても、適切な書類の提出と金融機関との連携が求められます。
これらの手続きは煩雑に感じるかもしれませんが、適切な知識と準備を持って進めることでスムーズに完了することができますのでご安心ください。ただ、以下の期限については相続手続きを行なっている間は常に意識しておいてください。
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忘れてはならない締め切り期限
不動産を取得する、預貯金を取得する場合の手続き方法は以上のとおりです。複雑な手続きですが、しっかりステップバイステップで一歩一歩進んでいっていただければ多少時間がかかっても問題はありません。
ただし、相続手続きには別の締め切り期限が設けられているものがありますので、この点は特に注意してください。
詳しくはこちらのページで解説をしています。相続開始後にするべきことの締切日の対応表
まず、相続が発生したことを知った日から3ヶ月以内に「相続放棄または限定承認の申立て」を行う必要があります。預貯金の存在を調査する間に3か月はすぐに到来しますので相続開始を知ってから3か月という期限は特に気をつけてください。
次に、相続開始を知った日の翌日から4か月以内に「準確定申告」を行うことが求められます。これは、死亡した被相続人の所得に関する確定申告で、相続人が取得した財産に関する「相続税申告」(この次に記載しています。)とは異なる手続きです。被相続人が事業者、賃貸物件の所有者で賃料収入がある場合などにはこの期間内に対応する必要があります。
そして、一番重要なのが、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に「相続税の申告と納税」を行うことです。この期限を逃すと延滞税や加算税が課税され税負担が重くなります。重大なペナルティが発生するため、特に注意が必要です。
また、遺留分を侵害されていることがわかった場合には、相続開始及び遺留分侵害を知ってから1年以内に「遺留分侵害額請求」を行う必要があります。遺留分侵害額請求についても相続分の計算や侵害額の計算、通知相手の選択など詳しく分析が必要になります。詳しくはこちらをご覧ください。
このように、相続手続きには期限が設けられているものもあります。
これらの期限ついて常に意識を向けながら、不動産登記の移転登記をどのように行うか、預貯金解約に至るまでの流れをどのように準備するかを並行して戦略を練ることになります。ご不安やご質問については、地元府中で多摩地方の相続に強いあさかぜ法律事務所の初回無料相続法律相談にぜひお気軽にお越しください。