改正民法における「婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の譲与、遺贈」の改正は、配偶者の居住権保護を強化する重要な変更です。

改正前は、配偶者が生前贈与で居住用不動産を取得した場合でも、それは特別受益として相続財産に持ち戻して計算する必要があり、配偶者は法定相続分(2分の1)から贈与分を差し引いた分しか取得できませんでした。この問題に対応するため、改正民法では婚姻期間が20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与や遺贈については、特別受益の持戻免除の意思表示があったものと推定する制度が導入されました。これにより、遺言等で明示的な指示がなくても、原則として生前贈与された居住用不動産は相続財産への持戻し対象から除外されます。この改正は令和元年7月1日以降の贈与から適用され、それ以前の贈与については従来通りの扱い(遺言に持ち戻し免除の意思表示を明示する必要あり)となりますのでご注意ください。

小規模宅地等の特例との関係にご注意

ただし、この改正を税務面から見ると、必ずしも生前贈与が有利とは限りません。相続税には「小規模宅地等の特例」という重要な軽減措置があり、故人の自宅や事業用の土地について、相続税の計算上、その評価額を大幅に減額できます。居住用の宅地については最大で80%の評価減が可能です。しかし、この特例は相続により取得した土地にのみ適用可能で、生前贈与された土地には適用できません。被相続人による「もち戻し免除」の推定を受けることでその贈与財産は相続財産に加算されず相続分の縮小はありませんが、生前贈与された土地には小規模宅地特例の減額措置を受けられない贈与税が課税されます(条件により基礎控除と配偶者控除を合わせた控除は受けられます)。

居住用不動産を生前贈与で取得した場合は100%の評価額で課税対象となる一方、相続で取得すれば最大80%の評価減が可能となり、相続税の負担を大きく軽減できます。

特別受益についての全体的なポイントについては以下をご覧ください。

府中・多摩で相続!相続の特別受益で揉めないために知っておくべきこと

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Yoshioka Makoto
弁護士法人あさかぜ法律事務所代表弁護士 「明けない夜はない」を胸に依頼者とともに。 相談の席で弁護士が真摯にお悩みを受け止めることで、心と体の重荷が解き放たれる。 癒えた心で法的助言を聞き、新たな未来の光を見つける。 その後、依頼者と弁護士が共に歩み解決へと導く。 明けない夜はありません。